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ユーザー体験の計画

このガイドの目的

このドキュメントは、あなたのチームが「ユーザーにとって本当に価値のある体験」を創造するための、実践的な地図であり、道具箱です。

良い製品は、優れたアイデアだけでなく、ユーザーへの深い理解から生まれます。

このガイドで紹介するプロセスは、その「理解」を具体的な形に変え、チーム全員が同じ方向を向いて製品開発を進めるためのものです。

初心者の方も大歓迎です。
各ステップで「何をすべきか」「なぜそれをするのか」を、具体的な例やテンプレートと共に解説します。
このガイドを共通言語として、チーム一丸となってプロダクトブリーフを作成しましょう。


🔍 【フェーズ1】リサーチ:ユーザーを深く知る

すべての始まりは、ユーザーを理解することです。
ここでは、思い込みを捨て、事実に基づいて「誰のために、何を解決するのか」を明らかにします。

🎯 このフェーズの目的

  • ユーザーの本当のニーズ、行動、課題(ペインポイント)を発見する
  • 製品が戦う市場や競合の状況を把握する

ユーザーから直接話を聞くことは、最も価値のあるインサイトを得る方法です。

✅ アクションアイテム

  • 対象者を決める:どんな人の話を聞きたいか定義する(例:小学生の子供を持つ、共働きの30代女性)
  • インタビューの準備:下のテンプレートを参考に、聞きたいこと(質問リスト)を準備する
  • 実施する:5人程度を目安に、1対1で30分〜60分ほど話を聞く
  • 記録する:許可を得て録音し、後で文字に書き起こす
初心者向けヒント:良い質問のコツ
  • 過去の行動を聞く:「〜という機能があったら使いますか?」のような未来の推測ではなく、「最後に〜した時のことを教えてください」と過去の具体的な体験を聞く
  • 「なぜ?」を繰り返さない:「なぜですか?」と直接的に聞くと相手は詰問されているように感じる。「もう少し詳しく教えていただけますか?」や「その時、どう感じましたか?」のように話を促す言葉を使う
  • オープンクエスチョンで聞く:「はい/いいえ」で終わらない質問を心がける

👤 【フェーズ2】ペルソナ:ユーザー像を具体化する

リサーチで得た、ぼんやりとしたユーザー像に、名前と顔を与え、チーム全員が共有できる「架空のユーザー」を作り上げます。

🎯 このフェーズの目的

  • リサーチ結果を、共感しやすく、記憶に残りやすい人格に集約する
  • 「誰のために作るのか」という問いに対する、チーム共通の答えを持つ

✅ アクションアイテム

  • リサーチ結果の分析:インタビューの記録を読み返し、ユーザーの共通の行動、目標、課題を付箋などに書き出す
  • グループ化:似たような付箋をグループ化し、いくつかのユーザータイプを見つける
  • ペルソナ作成:最も重要だと思われるユーザータイプを1つ選び、下のテンプレートを使ってペルソナを作成する
重要なポイント

ペルソナは、都合の良い人物像を作るのではなく、リサーチで得た事実に基づいて作成することが重要です。

🛠️ ペルソナテンプレート

項目内容例
写真[ユーザーの雰囲気に合う顔写真を挿入]
名前佐藤 由美(さとう ゆみ)
基本情報35歳、女性、会社員(マーケティング職)、夫と小学生の娘(8歳)と3人暮らし
性格・価値観・効率重視で、物事を計画的に進めたい
・家族との時間を大切にしている
・健康志向だが、手間がかかるのは苦手
利用状況・平日は仕事で忙しく、帰宅は19時頃
・スマートフォンの利用に慣れている
・料理は毎日するが、レパートリーが少ないことに悩んでいる
目標1. 家族に栄養バランスの取れた美味しい食事を毎日作ってあげたい
2. 平日の夕食準備の時間を30分以内に短縮したい
3. 「今日の献立、どうしよう…」と悩むストレスから解放されたい
課題・不満・仕事で疲れている日に、献立を考えるのが苦痛
・冷蔵庫にある食材を使い切れず、無駄にしてしまうことがある
・レシピサイトは情報が多すぎて、自分に合うものを探すのに時間がかかる
印象的な発言「せっかくの週末まで、一週間分の献立を考えることに頭を使いたくないんです」

🗺️ 【フェーズ3】カスタマージャーニーマップ:体験を可視化する

ペルソナが目標を達成するまでの道のりを、一連の物語として可視化します。

🎯 このフェーズの目的

  • ユーザーの行動、思考、感情を時系列で整理し、体験の全体像を把握する
  • 製品が解決すべき「最も重要な課題(ペインポイント)」を特定する

✅ アクションアイテム

  • As-Is (現状) マップの作成
  • To-Be (理想) マップの作成

🛠️ As-Is(現状)カスタマージャーニーマップ

フェーズ行動思考感情課題
献立検討仕事帰りの電車でレシピサイトを見る
家に何があったか思い出そうとする
「何作ろう…もう考えるの疲れたな」「この材料、家にあったっけ?」😩 (憂鬱)毎日献立を考えるのが苦痛
冷蔵庫の中身がわからない
買い物スーパーに立ち寄る
レシピに必要な材料を探す
「あれ、醤油がない!また買わなきゃ」「結局、高くつくなあ」😠 (イライラ)不必要なものを買いがち
買い忘れが発生する
調理キッチンでスマホを見ながら調理
子供に呼ばれて中断する
「この手順、面倒くさいな」「あ、焦がしちゃった…」😥 (焦り)調理手順が複雑
調理中に中断が多い
食事家族で夕食を食べる「みんな美味しいって言ってくれるかな?」😊 (安堵)特になし

🔧 【フェーズ4】サービスブループリント:体験の裏側を設計する

ユーザーに見える部分(フロントステージ)だけでなく、その体験を支える裏側の仕組み(バックステージ)まで設計します。

🎯 このフェーズの目的

  • 理想のユーザー体験(To-Beマップ)を実現するために、社内の業務プロセスやシステムに何が必要かを明らかにする
  • 開発着手前に、運用上の課題やボトルネックを特定する

🛠️ サービスブループリントテンプレート

項目内容
顧客の行動 (Customer Action)ユーザーが「買い物リスト作成」ボタンをタップする
接点 (Touchpoint)アプリの画面
フロントステージ (Frontstage)・アプリが「買い物リストを作成しました」と表示
・買い物リスト画面に遷移する
バックステージ (Backstage)・システムが1週間分の献立データを参照
・システムがユーザーの登録済み食材データと照合
・システムが不足している食材をリストアップ
サポートプロセス (Support Process)・正確な食材データベース(商品名、画像など)
・安定して稼働するサーバー
・ユーザーからの問い合わせに対応するカスタマーサポート体制

📋 【フェーズ5】要件定義:作るものを具体的に決める

ここまでのフェーズで見えてきた「理想の体験」を、エンジニアが開発できる「具体的な機能」のリストに落とし込みます。

🎯 このフェーズの目的

  • 開発チームが「何を作ればよいか」を明確に理解できるようにする
  • ビジネス目標とユーザー価値の両方を満たす機能に優先順位をつける

✅ アクションアイテム

  • ユーザーストーリーの作成:To-Beジャーニーマップやサービスブループリントから、必要な機能を「ユーザーストーリー」の形式で書き出す
  • 優先順位付け:書き出した全機能に優先順位をつける

🛠️ ユーザーストーリーテンプレート

[ペルソナ] として、 [目的を達成する] ために、 [この機能] がしたい。

例:
忙しい母親である佐藤さん として、買い物時間を短縮する ために、1週間分の献立に必要な食材の買い物リストを自動で作成する機能 がしたい。


📐 【フェーズ6】情報設計 (IA):情報の骨格を作る

ユーザーが迷子にならないように、アプリやWebサイト内の情報や機能を整理し、構造を設計します。

🎯 このフェーズの目的

  • ユーザーが直感的に情報を探し、目的を達成できるような構造を作る
  • UIデザインに着手する前に、画面全体の骨格と流れを固める

✅ アクションアイテム

  • カードソーティング:要件定義で出てきた機能や情報をカードに書き出し、ユーザー役の人にグループ分けしてもらう
  • サイトマップの作成:アプリやサイト全体のページ構成を、階層構造の図で示す
  • ユーザーフローの作成:ペルソナが特定のタスク(例:会員登録、レシピ検索)を完了するまでの画面遷移を図で示す
初心者向けヒント

このフェーズは、家の設計でいう「間取り」を決めるようなものです。家具(UI)を配置する前に、どの部屋(画面)がどこにあって、どう繋がっているかを決めることで、住みやすい(使いやすい)家(製品)になります。


🎨 【フェーズ7】UIデザイン:見た目と操作性を形にする

いよいよ、これまでの設計図をもとに、具体的な画面をデザインしていきます。

🎯 このフェーズの目的

  • 情報設計に基づき、美しく、直感的で、使いやすいインターフェースを作成する
  • プロトタイプを使ってユーザーテストを行い、リリース前に問題点を発見・修正する

✅ アクションアイテム

  • ワイヤーフレームの作成:色や装飾を省き、画面のレイアウト(要素の配置や骨格)に集中して設計する
  • モックアップの作成:ワイヤーフレームに色、フォント、画像などを適用し、完成イメージに近いビジュアルデザインを作成する
  • プロトタイプの作成:モックアップを繋ぎ合わせ、実際に操作できる「動く模型」を作成する
  • ユーザビリティテスト:ペルソナに近いユーザーにプロトタイプを操作してもらい、タスクをスムーズに完了できるか観察する

🔄 次へ:サイクルを回し続ける

継続的な改善

リリース後に実際のユーザーから得られるデータやフィードバックは、次の【フェーズ1】リサーチにおける最も価値のある情報となります。
このサイクルを回し続けることで、あなたの製品はユーザーと共に成長し、長く愛されるものになるでしょう。

このガイドが、あなたのチームの価値創造の旅の一助となれば幸いです。